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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)633号 判決 1956年11月16日

事実

原告は、振出人として村上敏也の記名捺印のある三通の約束手形((1)金額 一四八、三六〇円、支払期日 昭和三〇年一二月三一日、振出日 昭和三〇年一二月五日受取人S、(2)金額 一一五、〇〇〇円、支払期日 昭和三一年一月三〇日、その他(1)同様、(3)金額 一一四、〇五〇円、支払期日 昭和三一年二月一五日、その他(1)同様)を(1)の手形はS及びTの裏書を経て、(2)(3)の手形はSの裏書により夫々これを取得し現にその所持人である。

原告は、本件三通の手形は被告(大野敏雄)が振出したものであつて、振出名義の村上敏也は被告の別名であると主張し、

被告は、村上敏也は被告の義弟で本件各手形は同人が被告に対する買掛金債務支払のため名宛人を白地にて振出し被告に交付したものであると抗争した。

裁判所は後記判決理由によつて原告の被告に対する本件手形金請求を認容した。

理由

(1)  証拠によれば、村上敏也は被告の妻の弟で、現在小供乗物の売買を業とする被告方でその営業の手伝をしている者であり、従つて村上敏也が被告の別名であるとはいえないけれども、被告はその営業上村上敏也名義で銀行の取引口座を有し、同人の氏名を刻したゴム印及び印章を所持し、被告の営業の別口勘定(いわゆる裏勘定)の取引における支払等には被告或いは被告の妻が村上敏也名義を以て約束手形又は小切手を振出して取引先に交付していたものであり、本件三通の手形も被告が商品の仕入先であるSに対し買入商品代金支払のためこれを振出して交付したものであることが認められる。

(2)  商人が仮空の名義或いは通称等で銀行と当座取引をなし、その名義を以て手形、小切手を振出し取引に利用している場合のあることは一般に顕著な事実であり、斯る場合には振出名義人は振出行為者の別名として振出行為者が手形上の義務を負担することについては多く異論をみない。

(3)  而して実在する他人の名義を以て銀行取引をなしその他人名義を以て手形を振出した場合においても、振出行為者が手形債務を負担する意思で振出す以上、振出行為者は振出人としての手形上の義務を負担するものと解しなければならない。

(4)  本件においては、被告は義弟村上敏也名義で銀行取引をなし、同人名義で手形或いは小切手を振出していたもので、本件三通の手形も被告が斯くして振出してSに交付したものであつて、弁論の全趣旨からみて村上敏也は自己の名義を使用することにつき被告に承諾を与えていたものと認められるから、他人の署名を偽造した場合とは異り、被告は振出行為者として本件各手形につき振出人としての支払義務を負うものといわねばならない。

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